2024.05.02

給付金について

傷病手当金の審査基準と実際の不支給事例を徹底解説

休職中や退職後に利用できる社会保険制度の【傷病手当金】ですが、受給するためには保健組合の審査に通る必要があります。
どんな内容を審査されるのか、どんな場合に不支給になってしまうのかなど、実際の事例をご紹介しますので、傷病手当金の申請を考えている人はチェックしてみてください。

傷病手当金とは

傷病手当金とは社会保険に加入している人が利用できる制度で、病気や怪我で会社をお休みした時に、生活の保障として保険組合から支給される手当金です。
会社を休職した際に給与の代わりとして受け取る方が多いですが、条件を満たす事で退職後も継続して手当金を受け取れる可能性があります。

一つの傷病に対して最大18か月間受け取れる制度で、受け取れる金額は総支給の2/3ほどとなります。

しかし休職中は会社が申請の手続きを行ってくれますが、退職後は自分で手続きを行う必要があるため、正しい申請方法を理解する必要があります。

退職後も継続して受給するための申請条件として、

① 継続して社会保険に1年以上加入している
② 3日間の連続したお休み(待期期間)をとり、かつ退職日当日を休んでいる
③ ②の待期期間の前にクリニックで初診を受け、労務不能な状態と認められている

上記の3つの条件を全て満たしている必要があります。

いつ振り込まれるの?

今すぐ退職をしたとしても、すぐに手当金を受け取れる訳ではありません。
基本的には1か月ごとにまとめて申請を行いますが、傷病手当金の申請用紙は未来の日付を記入してもらう事ができませんので、例えば4月分の申請用紙を医師に書いてもらうのは5月の通院の際になります。
そのため実際に手当てが振り込まれるまでには、早くても2か月以上かかります。


【初回申請】
3/31:退職日
5月上旬:通院時に【3,4月分】の申請用紙を医師に書いてもらい、申請用紙を会社に提出する → 会社が保険組合に申請用紙を送付する
~審査期間~(保険組合によって異なりますが、1~3か月程かかります)
6月上旬:4月分の傷病手当金振込

【2回目以降の申請】
6月上旬:通院時に【5月分】の申請用紙を医師に書いてもらい、自身で保険組合に送付する
~審査期間~(保険組合によって異なりますが、1~3か月程かかります)
7月上旬:5月分の傷病手当金振込

何を審査されるの?審査は厳しい?

「傷病手当金の審査って、具体的には何を審査されるの?」と思う人も多いと思います。
ざっくりお伝えすると【本当に働けない状況にあるのか】【ちゃんと傷病を治す気があるのか】といった事を審査しています。
どのような形で審査しているのか、以下でご紹介します。

本人への聞き取り調査

保険組合から直接電話がかかってきたり、追加の書類を求められるケースがあります。
「症状は改善傾向にあるのか」「いつ頃働ける状態になりそうか」「傷病を治すために、どのような日常生活を送っているのか」などの回答を求められる事もあります。

医師への聞き取り調査

保険組合からクリニックに連絡が入り、「どのような方法で治療しているのか」「薬はちゃんと受け取っているのか」「患者(本人)とどのような話をしたか」「通院頻度は適切か」などチェックされる事があります。

SNS等のチェック

審査の厳しい組合では、SNS等をチェックされる事もあります。
「アルバイトなどしていないか」「再就職のために動いていないか」「働けるくらい元気な状況ではないか」などチェックされる事がありますので、軽率な発言は控えるようにしましょう。

また過去に個人事業主として働いていた事があり、その時のお店や会社のホームページが残っている場合なども、詳しく調査される可能性があります。

不支給になってしまった事例15選

弊社では傷病手当金の申請サポートをしていますが、サポートからの案内を待たずに申請を進めてしまった事が原因で、不支給になってしまった事例もあります。
また「自分で申請をしてみたけど、審査が通らず困っている」と弊社にご相談される方もいらっしゃいます。
どういった場合に不支給になってしまうのか、具体的な事例をご紹介します。

① 社会保険の加入期間が1年未満だった

傷病手当金は休職中だけではなく、退職後も受給する事ができます。
しかし制度を使える条件が一部異なります。
休職中は社会保険の加入期間が一年未満でも制度を利用できますが、退職後も継続して制度を利用する場合は、継続して社会保険に1年以上加入している必要があります。
【休職中に傷病手当金を使っていたが体調が回復せず、そのまま退職する事になった】という方も多いですが、その場合も退職日時点(社会保険の資格喪失時点)で継続して1年以上社会保険に加入していない場合は、退職日をもって支給終了となります。
必ず退職前に、自身の社会保険加入期間を確認しましょう。
※前職と現職の間に1日も空きがない場合に限り、社会保険の加入期間の合算ができる可能性があります。(対象外の組合あり)

② きちんと待期期間がとれていなかった

傷病手当金は【傷病が理由で3日以上連続して休んだ場合に、4日目以降から手当金が支給】されます。
一般的な健康保険組合(全国健康保険協会など)であれば、3日以上の連続した休みに公休を含める事ができます。
しかし【共済組合】に加入している場合は、【土日を含めず3日以上の連続したお休み】をとらないと制度の対象外となります。

例:土日が公休の会社の場合
 ・一般的な健康保険組合(全国健康保険協会など)
  【金土日月】を休んだ場合→【金土日】が待期期間となるため、月曜日以降の手当金を受給できる
 ・共済組合
  【金土日月】を休んだ場合→土日は含めず3日以上連続して休む必要があるため待期期間が完成しておらず、支給対象外
  【金土日月火水】を休むことで【金月火】が待期期間となるため、水曜日以降の手当金を受給できる

保険組合独自のルールを定めている組合もありますので注意しましょう。

③ 退職日に出勤してしまった

退職後も傷病手当金を受け取るためには、必ず【退職日当日を欠勤】する必要があります。
しかし「荷物の返却と退職の挨拶だけのつもりだったが、会社から出勤扱いにされてしまった!」というケースも少なくありませんので気を付けましょう。

④ 既に失業保険の申請をしている

退職後、既にハローワークで失業保険の申請をしている場合は傷病手当金の申請はできません。
傷病手当金は【病気や怪我で働く事が難しい方】に向けた制度ですが、失業保険は【働ける状態にあり、積極的に就職活動をしている方】に向けた制度になるため、相反する2つの制度を同時に利用する事はできません。
傷病手当金と失業保険をどちらも受給したい場合は、必ず先に傷病手当金を申請する必要があります。

⑤ 通院をサボってしまった

傷病手当金を受給するためには、定期的に通院を続ける必要があります。
保険組合が定期的と認める通院の頻度は【最低でも月1回以上】ですので、「今月は症状が軽かったし、来月通院すればいいや!」などの理由で通院しない月があった場合、保険組合の判断次第では【完治したから通院を辞めた】と判断されてしまうケースもあります。
どんなに忙しくても、必ず月1回以上は通院をしましょう。

⑥ 病院を変えてしまった

傷病手当金受給中は、基本的に同じ病院に通院を続ける必要があります。
引っ越しなどやむを得ない事情で別の病院に転院する場合は、1日も間をあけずに別の病院に通院する必要があります。
例:1/15 A病院通院
  2/15 A病院通院
  2/20 B病院通院
  3/20 B病院通院 → 2/16~19までの期間を労務不能と診断できる人がいないためNG

  1/15 A病院通院
  2/15 A病院通院
  2/16 B病院通院
  3/16 B病院通院 → OK 転院先のクリニックで継続して申請ができます

⑦ 傷病手当金受給中にアルバイトをしてしまった

傷病手当金は「病気や怪我で働く事が難しい人」に支給される手当金のため、受給中はパートやアルバイトもする事ができません。
「単発のアルバイトであればいいかな・・・」と思う人もいるかも知れませんが、働いている事が医師や保健組合に伝わると支給停止になる可能性があるので控えましょう。
(株の売買や不動産所得などの不労所得であれば認められるケースもあります)

⑧ 会社が申請に協力してくれなかった

退職後に傷病手当金を受給する場合でも、初回の申請の際は必ず在籍期間を4日以上含めて申請する必要があります。
在籍期間を含めた申請を行うには会社でも必要書類を記入する必要があります。

しかし「会社とトラブルがあって退職した場合」「退職代行を使って辞めた場合」などは、嫌がらせで書類の記入に協力してもらえないケースもあります。
悪気はなくとも、「傷病手当金の制度について理解がなく協力してもらえない」といった場合もありますので、しっかりと「傷病手当金を使う理由・自分には使う権利がある理由」を伝える必要があります。

⑨ 医師が「労務不能な状態」と認めてくれなかった

傷病手当金は、「この病名でないと申請できない」といった決まりはありません。
かぜ・捻挫・腰痛・不眠症・ADHD・アルコール依存症などでも申請は可能ですが、医師から「労務不能な状態である」と認められる必要があります。
仮に医師に申請用紙を書いてもらった際に、「症状はあるが改善傾向にあるため働く事は可能である」などと記載されてしまった場合は、申請を継続する事は難しくなります。

⑩ 医師は労務不能と認めたが、保険組合が労務不能と認めなかった

医師からは「労務不能な状態である」「休養が必要である」などと診断された場合でも、保健組合によっては「このような傷病であれば労務不能な状態であるとは認められない」と判断されてしまう場合もあります。
不支給が決定する前に本人や医師に調査の連絡が入ることが多いですが、判断基準は保険組合によって異なりますので、例えば同じ「腰痛」であってもA保健組合では申請が通ったのにB保健組合では申請が通らなかったというケースもあります。

⑪ 学校・スクールに通っている事が保険組合に伝わってしまった

「仕事を休む期間を利用して、大学や資格取得のためのスクールに通いたい」と考える方もいますが、学校に通っている事実が医師や保健組合に伝わり、「学校に通う事ができる状態なのであれば、働く事もできるのではないか」と判断されてしまうと、支給終了になってしまうケースもあります。

⑫ 起業に向けて動いている事が保険組合に伝わってしまった

退職後は別の会社に再就職するのではなく、自分で起業して働いていこうと考える方もいらっしゃいます。
例えば「新たにお店を始めようと思うので、傷病手当金受給中にSNS等で告知をして集客していきたい」などと考える方もいらっしゃいますが、この事実が医師や保健組合に伝わってしまうと支給終了になってしまう場合もあります。
「保険組合に伝わる事なんてあるの?」と思うかもしれませんが、審査の厳しい保健組合はSNS等もチェックしている事がありますので、SNS等での発言にも気を付ける必要があります。

⑬ 老齢年金・障害年金を受け取っている

老齢年金を受け取っている人は、傷病手当金を受給できない仕組みとなっています。
※傷病手当金の金額が老齢年金の金額を上回っている場合は、差額分のみ支給されます。

また障害年金に関しても、障害基礎年金のみの受給であれば問題ありませんが、傷病手当金と同一疾病で障害厚生年金を受給している場合も、傷病手当金を受給できない仕組みとなっています。
※傷病手当金の金額が障害年金(障害基礎年金+障害厚生年金)の金額を上回っている場合は、差額分のみ支給されます。

⑭ 労災を受け取っている

労災と傷病手当金も同時に受給する事ができない仕組みとなっています。
傷病手当金よりも労災で支払われる金額の方が一般的には高くなりますので、労災の対象であれば労災を申請した方がいいと思います。
しかし精神疾患で労災を申請しようと考えた場合はかなり審査が厳しく、労災申請が通る割引は約3割程と言われています。
「会社が原因で精神疾患になってしまった」という証拠を準備する事が難しいようであれば、労災は諦めて傷病手当金を利用するのも一つの方法です。
また、傷病手当金の申請条件を満たせていれば「労災の審査に通らなかったので傷病手当金に切り替える」という事も可能です。

⑮ 過去に傷病手当金を使っていた事がある

傷病手当金は一つの傷病につき最大18か月間受け取れる制度のため、数年前に同じ病名で18か月間使い切っている場合は制度を活用する事ができません。
また同じ病名ではなくとも、前回は【適応障害】、今回は【うつ病】など同じメンタル面での疾病の場合は、再度手当てを受け取る事ができないケースが多いです。

併せて「前回は3か月分しか手当てを受け取っていないから、残りの15か月分を受け取りたい!」と思って同じ病名で申請しようとした場合でも、【令和2年7月2日以前に支給が開始された手当金】を受け取っていた事のある場合、残りの15か月分を受け取る事はできません。
※新たに【通算化】というルールが追加されたためです。

初回の支給開始が【令和2年7月2日】以降で、手当てを受け取っている期間が18か月未満であれば残りの分を新たに受け取れる可能性があります。

不支給になってしまったら結果はくつがえせない?

傷病手当金の申請用紙を保険組合に送り審査が完了すると、結果に応じて【支給決定通知書】もしくは【不支給決定通知書】が届きます。
文字の通り不支給決定通知書が届いてしまった場合は、手当てを受け取る事ができません。
不支給決定通知書には不支給理由の記載がある事が多いですが、どうしても納得できない場合は、社会保険審査官(厚生局)に再度審査を依頼する事ができます。
しかし審査請求にはかなりの時間を要するため、3~6か月程はかかると思っておいた方がよいでしょう。

また弊社のサポートを利用されている方の中で審査請求を行った事例は7件ありますが(2024年3月時点)、再審査が通ったのは3件のみですので、自身で審査請求をするのはかなり難しく労力がかかると思っておいた方がよいでしょう。

傷病手当金の審査を待つ間にやるべき事

① 年金の免除申請

退職後2年間は年金の免除申請が可能となります。
世帯収入によって全額、4分の3、半額、4分の1の免除が可能となります。
筆者も実際に年金の免除申請をしたことがありますが、単身世帯であれば全額免除になる可能性が高いです。
もちろん年金を免除せず支払い続けた時と比較すると将来受け取れる年金額は若干下がりますが、全額免除となっても半額分は納めているという扱いになりますので、少しでも今の支出を抑えるためには活用したほうがよいでしょう。
まずは「離職票や雇用保険受給資格者証」と「年金手帳」を持って、お近くの年金事務所に相談してみましょう。

② 国民健康保険への加入

退職後は現在加入している健康保険を任意継続するか、国民健康保険に加入する必要があります。
国民健康保険の手続きは資格喪失後14日以内に、任意継続の手続きは資格喪失後20日以内に行う必要があります。
傷病手当金の審査を待っている間も定期的な通院は続ける必要がありますので、退職後は早めに健康保険の切り替えを行うようにしましょう。

【番外編】どうしても生活できそうにない場合は・・・

傷病手当金が振り込まれるまでは早くても2か月以上はかかります。
あまり貯金のない状態で退職すると、どうしても傷病手当金の支給を待っていられない場合もあるかと思います。
そんな時は以下の方法を活用する事も検討してみてください。

① 消費者金融カードローンを使う
 退職日を迎える前であれば、消費者金融カードローンでお金を借りる事ができます。
 銀行カードローンと比べると金利が高く設定されていますが、比較的審査が厳しくない事が多いです。
 会社の在籍確認が必要になる消費者金融が多いので、退職後の生活が厳しそうであれば、退職日を迎える前に手続きをしておくとよいでしょう。

② 質屋を利用する
 既に退職済みで消費者金融が利用できない場合は質屋の利用も視野に入れてみましょう。
 貴金属やブランドバッグ・財布・腕時計などがあれば無職でも借り入れができます。
 その他にもスマートフォンやパソコン、ゲーム機なども担保にできますので、自分の家にも担保になりそうなものがないか確認してみましょう。

③ 家族・友人にお金を借りる
 上記の2つとも難しい場合は周りの人にお金を貸してもらえないか相談してみましょう。
 ただしお金の貸し借りをする事で人間関係にヒビが入る事も考えられますので、あくまでも最終手段だと思っておきましょう。

まとめ

一度不支給と判断されてしまうと中々くつがえす事は難しいので、最初から正しい内容で申請していく事が大切です。
とはいえ申請方法が複雑、かつ失業保険とは違い実際に申請方法を教えてくれる窓口なども存在しないため、申請を諦めてしまう方が多いのが実状です。

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