2024.05.24
就労について
休職制度とは?
会社員として働いていても、いつ「働けない状況」に陥るかは分かりません。不慮の事故や病気などで働けなくなってしまう可能性は誰もが持っているからです。怪我やうつ病といった精神的な疾患など、様々なトラブルが原因で仕事を続けられなくなった際に会社を休める仕組みとして、「休職制度」というものがあります。有休や育休といった制度は広く知れ渡っているものの、休職制度はあまり認知されていないかもしれません。ここでは、休業制度の内容やメリット、注意点、休職中に利用できる可能性のある傷病手当金について解説します。
休職制度とは?
そもそも、休職とはいったいどういう仕組みなのでしょうか。まずは、休職制度についての内容や、他の制度との違いについて以下に説明します。
従業員に与えられた猶予期間
休職制度とは、労働者が自分の都合で会社を休む際に、労働を免除してもらえる制度です。会社側としては、長期間にわたって従業員に休まれてしまうと、解雇せざるを得なくなってしまいます。しかし、従業員を簡単に解雇できるわけではありません。従業員を解雇した際に明確で正当な理由がなければ、裁判所により解雇無効が言い渡されてしまう場合があります。従業員との間でトラブルになってしまう可能性もあるでしょう。会社としてはリスクを避けたいわけです。
そこで有効なのが休職制度です。この制度があるおかげで、やむを得ず働けなくなった場合でも一定期間休職することで療養の機会が与えられます。もしも休職制度がなければ即時退職も有り得るところです。しかし、会社にとっては仕事を覚えて働いてくれている人には辞めてもらいたくありません。その人が抜けたら新しい人を雇う必要がありますが、採用のコストと手間を考えれば当然のことです。一時的に休んでいても戻ってきてほしいのが本音でしょう。つまり、休職制度は解雇までの猶予期間という側面を持つとともに、「しっかり休んで元気になって戻ってきてほしい」という会社の期待の表れであるとも言えるのです。
裁量は各会社にあり
労働者の都合で会社を休むための制度とはいえ、休職の理由はさまざまです。そもそも休職制度があることが当然ではありません。休職制度は法的に定められているわけではないので、会社によっては休職制度を設けていない会社もあります。休職制度は会社によって概要が異なるため、どういった内容で休職制度を利用できるかは会社次第です。
例えば、大企業であれば、怪我や病気、留学、ボランティアなどで利用できるようです。また、中小企業であれば、怪我や病気時のみ利用できるのが一般的とされています。実際には休職制度を利用している中で、うつ病などの精神的疾患を理由に利用されている方が最も多いとも言われています。また、休職内容だけではなく、休職期間についても会社それぞれの裁量次第で、大企業なら半年~数年、中小企業では数か月~1年程度が一般的です。勤続年数によって休職可能期間を変えている場合もあります。休職制度の内容については、各会社の就業規則に明記されているため、利用を検討している方は事前に確認しておくと良いでしょう。
各休暇や有休、欠勤との違いは?
休暇や有休と休職の大きな違いは、「休み中に給料が支払われるか否か」です。休職制度を利用する場合、労働者の都合によって会社を休んでいるわけですから、原則的には給料が支払われることはありません。大企業の場合は、稀に会社独自の規定により手当が支払われる場合がありますが、実際にはごく一部です。
また、同じ労働者の都合で休むものに欠勤がありますが、欠勤と休職の違いは「労働を免除されているかいないか」という点で大きく異なります。同じ病気や疾患で会社を休んだとしても、欠勤は労働を免除されたわけではありません。会社にとって、従業員の当日欠勤は予想外のことなので、あらかじめその欠勤に備えてスケジュールを立てることができません。その結果、現場の人たちで負担を分け合いつつどうにかして対応することになってしまうため、同じ職場内の人たちへの負担や、同僚の不満も大きくなってしまいます。休職の場合は、あらかじめ休職期間が決まっているため、人手不足であってもそれに応じて対策を練ることができます。そのため、休職よりも当日欠勤をしてしまうほうが、ネガティブな印象を持たれやすくなることが想定されます。
休職から復職までの流れ
休職した場合は、当然その後「復職」または「退職」のいずれかの道を選ぶこととなります。ここでは一般的に多い、「病気や怪我で休職し、その後復職する場合」の流れを紹介します。
・休職までの流れ
- 通院先の医師に休職したい旨を相談し、診断書を発行してもらう
- 会社に診断書を提出し、休職を願い出る
- 休職期間や業務の引き継ぎについて会社の人と打ち合わせる
- 休職開始
・復職までの流れ
- 通院先の医師から復職可能と記載された診断書を発行してもらう
- 会社に診断書を提出し、復職を願い出る
- 復職時期や体調をはじめ、部署・業務に関する内容を会社と打ち合わせる
- 復職
会社により異なりますが、主に上記のような流れになることが一般的です。医師によっては、稀に「会社と先に休職について相談するように」という指示があり、診断書を発行してもらえないこともあります。一方で、「診断書がなければそもそも休職についての話し合いに応じない」といった会社もあります。もしそのような板挟みに遭ってしまったら、医師に会社の言い分を伝えて相談してみると良いでしょう。期間の明記はなくとも、休職について話し合うように促す診断書を発行してもらえる場合があるためです。
休職制度のメリット
よく「休職したら終わり」だなんて思う人もいるようですが、それは違います。休職期間は自分の再スタートまでの大切な準備期間に当たるからです。ここでは、休職制度のメリットに関してお伝えします。
1. 時間が確保できる
休職制度の大きなメリットは、自分の時間を確保できることです。毎日忙しく働いていると、自分一人の時間はもちろん、家族との時間もなかなか取れないこともあるでしょう。休職期間は、自分の心身のリフレッシュのために時間を有効に使うことができます。もちろん休職期間は休養に充てるための時間ですが、その時間を利用して休養しながらできる自分の好きなことに打ち込んだり、家族と食事をしたりすることもできます。常に時間に追われていたような生活をしていた人ほど、このメリットは魅力的に映るでしょう。
2. 傷病手当金が受け取れる可能性がある
原則として休暇制度中に給料は支給されませんが、条件が合えば健康保険組合から傷病手当金を受け取れる可能性があります。会社によっては、人事から傷病手当金の申請をしないか聞かれることもあります。給料の7割ほどを受け取ることができる制度の傷病手当金は、療養中の大きな支えとなる制度でもあります。申請の条件を確認し、自分が適用範囲内かどうか事前に調べておきましょう。また、別途紹介しますが、傷病手当金は医師にも書類を記入してもらう必要があります。医師から「労務不能」と認められた人が対象になるため、途中で通院を止めたり、医師から「働ける状態」と認められたりした場合は対象外となるので注意してください。
3. 戻れる場所があるという安心感がある
毎日仕事をするのが当然の日々を送っていた人にとって、毎日のルーティーンであった仕事がなくなるのは、楽になるとともにどこか不安を抱くことになりがちです。考える時間ができたことによってこの先の未来への漠然とした不安を持つこともあるでしょう。しかし、もしも休職制度を使わずに退職していたらどうだったでしょうか。漠然とした不安どころか、就職活動や収入のことまで考えなければならず、不安でいっぱいになってしまいます。退職・復職のどちらを選ぶにしても、「いざとなれば復職できる」という気持ちはだいぶ自分を楽にしてくれます。
休職制度の注意点
休職制度はメリットばかりではなく、きちんと理解して利用しなければ、自分が不利な立場になってしまうことも考えられます。休職制度を利用するにあたっての注意点は、次の通りです。
1. 無給でも社会保険料は発生する
休職制度利用中は、原則として給料が支払われることはありません。支払われたとしても、実際に支給される金額よりも少ない金額になってしまいます。療養には、病院代などまとまった費用がかかる上に、無収入では生活が厳しくなってしまうことも考えられます。しかしながら、会社に在籍している以上は社会保険料が発生しています。一般的には会社で天引きして支給されるため、あまり意識していない人も多いでしょう。しかし休職すると、給料がないにもかかわらず社会保険料を会社に振り込まなければいけなくなります。
2. 場合によっては昇進や賞与に影響がでる
休職制度は従業員の雇用を守る制度ではありますが、あまりに長引きすぎたり、何度も休職制度を利用したりといったことが起こると、会社からの信用を失うことになってしまいかねません。会社にとっても重要な仕事や納期が近い仕事を休みがちの従業員に任せるにはリスクがあるため、任せる仕事にも制限が出てきてしまいます。そのため、場合によっては昇進や賞与に影響するといったことも考えられます。休職制度を利用したからといって、必ずしもネガティブな印象を持たれるわけではありませんが、そういったケースもあるということも心得ておくほうが良いかもしれません。
3. 休職終了後の働き方を考えておく必要がある
休職制度終了後の働き方についても、考えておく必要があります。現在、休職制度はうつ病や精神的な疾患を理由に利用している方が多いと言われています。現在の働き方や人間関係が原因でそういった問題が起こってしまったとすれば、休職前後で環境に変化がなければ、また同じ問題に直面してしまうことが想定されます。そのため、休職終了後にいきなり以前と同じペースで働くことも負担になるかもしれません。そこで、復職後に働く際にはどのような働き方が適切か、どういったペースで復帰していくかを考えておくことも重要でしょう。最終的には会社に自分の希望を伝えて折衝していく必要があります。
休職後の復職率は?
2013年に公表された労働政策研究・研修機構の調査では、病気休職制度利用者の復職率の平均値は51.9%という結果が出ています。休職した人のうち、二人に一人が復職しているということになります。一方で、休職の原因が「がん」や「精神疾患」、「脳血管疾患」によるものである場合は退職率が高い傾向にあります。休職後に復職するかどうかは休職の原因となった傷病の状態と本人の気持ちが一番重要です。
休職中に解雇されることはある?
傷病休職をする場合、あらかじめ会社と合意した期間に解雇される可能性は低いでしょう。ただし、傷病休職はあくまで休職後に復職することを前提とした制度です。そのため、退職するつもりであることを伝えていた場合は休職制度の要件を満たさないと判断され、解雇される可能性もあります。休職後に復職できる場合は、解雇されるということは考えにくいはずです。ただし、休職中もその会社に籍を置く社員の一人であるという事実は変わりません。会社の規律違反等をしてしまった場合は、休職に限らず解雇となる可能性もあり得るでしょう。会社の就業規則に則って違反しないように注意する必要があります。
休職中に退職することはできる?
復職する上では便利な休職制度ですが、休職をしないで退職しようという結論に至ることもあるでしょう。結論から言えば、休職中に退職することは可能です。一般的に退職の意向は退職日の1ヶ月~2ヶ月前に申し出るようにとされているケースが多いとされています。その期間を使って引き継ぎや後任を探す必要があるからです。ただ、休職している人が辞める場合はその時間が必要ありません。すでに誰かが代わりに休職した社員の分の仕事を担当しているからです。退職の意向を固めたら上司にその旨を連絡し、指示を仰いでください。会社によっては人事へ連絡するようにと言われたり、逆に人事から連絡が来たりすることもあります。
休職手当(傷病手当金)を受け取るには?
休職制度中は無給となりますが、条件によっては傷病手当金を受け取れる可能性があります。ここでは、傷病手当金を受け取る際の注意事項について説明します。
傷病手当金とは?
傷病手当金とは、休職制度利用中に無収入や減収になってしまった際に、加入している健康保険組合から支給されるもので、療養中の生活の大きな支えとなります。最長で1年6ヵ月利用することができますが、給付されるためには、いくつかの条件があります。
傷病手当金を受け取るための条件
傷病手当金を受け取れる条件は、次の通りです。
- 社会保険に加入している
- 怪我や病気で働くことができない
- 連続して3日以上仕事を休んでいる
- 休職中に給料が支払われていない(減額している)
社会保険に加入していることが条件に入っているため、国民健康保険に加入している場合には、残念ながら適用外となります。連続して3日以上休んでいることが条件なので、例えば2日欠勤し、1日出勤、その後1日欠勤といった場合は、同じ3日欠勤でも適用されないため注意してください。また、怪我や病気で「働くことができないか否か」は受診している病院の医師や健康保険組合、加入している保険組合などが判断します。自己申告だけでは認められないことを覚えておきましょう。
傷病手当金以外にも利用できる手当
休職する際に利用できる制度は、傷病手当金以外にもあります。ただし、それぞれ利用するための条件があります。自身の状況でどのような制度が利用できるか、あらかじめ調べておくといざ休職することになった時にも安心です。ここで紹介する制度の他にも、稀に健康保険組合や自治体が独自で行っている制度がある場合もあります。
労災保険
休職する原因となった傷病が業務中または通勤中の事故などによって起きたものの場合は、傷病手当金ではなく労災保険給付の対象となります。業務中か通勤中かによって申請書類のフォーマットが異なるので注意が必要です。労災保険の申請をするためには、本人の記入はもちろん、医師の記入と会社の記入も必要となります。申請先は労働基準監督署になるので、労災保険の申請について分からない点があれば労働基準監督署に確認すると良いでしょう。
自立支援医療制度
メンタルヘルスの不調による休職は、年々増えています。そうした精神疾患で通院している時に利用できるのが自立支援医療制度です。自立支援医療制度は、特定の病院の受診料を1割にすることができる制度です。通常であれば3割負担となるところ、1割になるのは大きな違いです。傷病手当金や労災保険給付があったとしても、支出はなるべく減らしたいですよね。自立支援医療制度の利用者も増えつつありますが、指定の病院でしか利用することができないという点に注意が必要です。
リワークプログラム
リワークプログラムとは、精神疾患で休職中の人を対象とした職場復帰を支援するための制度です。主に心療内科や精神科などの病院、または地域障害職業センターや福祉系リワーク施設にて受けることができます。施設によってサービス内容は異なりますが、再休職を防ぎ、健康な心身で職場に復帰しようという目的は一貫しています。通院先の病院にリワークプログラムがない場合でも、医師に相談すると施設を紹介してもらえることもあるので検討してみてくださいね。
まとめ
やむを得ない理由で仕事を続けられなくなった際に利用できる休職制度は、療養後の生活を守る上でとても大切な制度です。ただ、休職制度は完全なる保障ではないため、休職中に生活を支えていくための準備も併せて用意しておく必要があります。社会保険に加入している場合は、条件次第で傷病手当金や労災保険が利用できる可能性もあります。他にも休職中に利用できる制度はいくつもあるので、自身の状況に応じて利用できるものがあるか調べてみてくださいね。
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