2024.04.19
給付金について
休職したら収入が…そんな時のための給付金
障害を負った際に支給される給付金。「障害者年金」などと言われることがありますが、正式名称は「障害年金(障害厚生年金)」と、今回解説する「傷病手当金」が該当します。障害年金と傷病手当金は、ややこしいかもしれませんが全くの別物です。今回は、その傷病手当金についてご紹介します。傷病手当金は社会保険の中の「健康保険」に当たる手当で、社会保険に加入している会社員なら皆対象となります。ただし、申請には条件やルールがあります。いつか利用する時に備えて、傷病手当金の仕組みや申請の条件について知っておきましょう。
休職の種類
「休職・退職…どちらがいいのか迷ったら」でも紹介した通り、休職という制度はそもそも会社によって設けられているかどうかが異なります。会社で休職制度を設けていない場合は、休職したくても休職することができません。休職制度があるかどうかは社内規則などで確認することが出来ます。休職を検討したい場合は事前に確認しておきましょう。また、一言に「休職」と言っても、一種類というわけではありません。ここではどんな種類の休職があるのか紹介します。
病気休職(私傷病休職)
労働者が病気やケガなどで働けない状態になった時に使える休職制度です。会社を休まざるを得ない状態になるのは病気やケガであることが多いため、一番多い休職制度と言えるでしょう。なお、労働災害での病気やケガは対象外となるケースが多いとされています。そのため、労働災害とならない、つまり「業務とは関係のない私傷病」の場合に対象となるものです。例えば持病の再発やぎっくり腰、休日に骨折した場合等が対象になるということです。いくら病気やケガで働けない状態とは言え、休んでいる間にも会社には社会保険料などの負担が発生しているため、「治るまで休職できる」というところはほとんどありません。最長でいつまで休職できるのかは会社によって異なるので、事前に確認しておきましょう。
自己都合休職
傷病ではない理由で、本人の希望で休職する場合は自己都合休職に当たります。遠方へのボランティアや海外留学など、会社に努めながらではなかなかできない長期休暇を取ることが出来る仕組みです。会社員にとってはありがたい制度ですが、当然休職中は給与の支給がないことがほとんどなので注意してください。普段体験できないことを味わうことで視野が広がり、創造性や積極性の上昇を見込めるとされているため、会社にとってもメリットがあると言えるでしょう。休職を経て一回り大きくなって戻って来た社員は、他の社員にとっても良い刺激となります。この制度がない場合でも長期休暇が欲しい場合、連休と有給を組み合わせる人もいます。
起訴休職
労働者本人が刑事事件で起訴された場合、判決確定まで休職せざるを得ない状況に陥ります。そうした場合は起訴休職に該当します。期間は一般的に、判決確定までの期間もしくは一定期間とされます。なお、起訴されたからと言ってただちに起訴休職扱いになるわけではありません。起訴休職かどうかを判断するのは会社側です。会社側の判断によっては「自己都合休職」とされる場合もあるのです。なお、過去の裁判例では起訴の事実だけで会社が起訴休職を強いることはできません。「出社したら会社の信用にかかわる」「出社したら周囲の従業員に悪影響を与える」などの妥当な理由があって初めて起訴休職が通るということになります。
出向休職
出向休職は、グループ企業や関連企業などに出向して働いている期間を、元の会社で休職扱いとされるものです。休職に至るものは自己都合によるものがほとんどですが、出向休職の場合は会社の意向で出向していることとなり、大きな違いがあります。なお、出向には元の会社に籍を置いたままの「在籍出向」と、籍ごと出向先の会社に移してしまう「転籍出向」があります。出向休職が当てはまるのは「在籍出向」のみです。「転籍出向」の場合は籍を置く会社で働いているため、休職扱いとする必要がないからです。「転籍出向」では元の会社で休職扱いとされ、元の会社または出向先の会社から給料が支払われることとなります。
その他にも議員などの公職に就いた場合に該当する「公職就任休職」や、労働組合の業務を行う担当者が対象となる「組合専従休職」などがあります。こちらは珍しい制度なので、耳にする機会は少ないかもしれません。また、会社によっては休職だけでなく、様々な休暇制度を取り入れている会社もあります。福利厚生の一環として取り入れている会社も多いので、求人情報を見る際には福利厚生の項目もチェックしてみてください。
傷病手当金という仕組み
休職中に金銭的なフォローをしてくれる仕組みとして「傷病手当金」が挙げられます。傷病手当金は、健康保険法第99条で規定されています。
傷病手当金は、病気休業中に被保険者の生活を保障するために設けられた制度です。傷病手当金を支給する主体は、大企業の場合は自社の健康保険組合、中堅・中小企業やベンチャー企業などの場合は協会けんぽ、あるいは業界の健康保険組合、公務員や教職員の場合は共済組合になります。なお、国民健康保険、いわゆる国保の場合、国民健康保険法には支給する規定がありませんので、受給することはできません。
具体的には、勤務先を業務外の病気や怪我で4日以上休んだ場合、事業主等から十分な報酬(給料)を受けられなくなった際、生活費補填のために健康保険組合や共済組合に対して傷病手当金を請求することができるというものです。傷病手当金は給料と同時に受け取ることができませんが、欠勤中の期間において給料が全額出ないとき、減額なしで支給されます。その支給額は1日につき標準報酬日額の3分の2に相当する額です。正確な数字ではありませんが、目安として「月の給料の3分の2くらい」と思っておくと良いでしょう。
なお、請求に際して、医師から「仕事に就くことができない状態」すなわち「労務不能」であるという証明をもらわなくてはなりません。この証明や状況を総合的に判断し、支給するか否かを決定する仕組みになっています。この傷病手当金の請求については、本人、あるいは社会保険労務士が代行して申請を行うことができます。
私傷病で休職をしたら傷病手当金の対象に
さて、休職にも様々な種類があることが分かりましたが、実際に利用されることが一番多いのは「私傷病による休暇」です。業務が原因ではない病気やケガの場合は労働災害の対象ではありません。その代わり、傷病手当金の対象となります。傷病手当金は、病気やケガによって仕事を休み、十分な報酬が受けられないときに、健康保険組合から支給される給付金です。ただし、「国民健康保険」の加入者は傷病手当金を受け取ることができません。会社員として、その会社で社会保険に加入している人が対象となる制度なので注意してください。インフルエンザやプライベートで出かけた際に骨折した場合なども私傷病に含まれます。少し前には、新型コロナウイルスに罹った時に傷病手当金の申請ができるというニュースが広まったことから傷病手当金の知名度が高まりました。傷病手当金は様々な傷病において申請を行うことができるので、休職をする場合は心強い味方となります。傷病手当金の支給要件や、受給できる金額については改めて説明します。まずは「私傷病が傷病手当金の対象」だということを知っておいてくださいね。
業務内の怪我や病気が原因で休職した場合は労災の対象に
労働災害(労災)とは、労働者が業務中の事故によってケガや病気、障害を負った場合や、死亡した場合に遺族へ給付金を支払う制度です。業務中だけでなく、通勤途中の事故も対象になります。労災は正社員に限った制度ではありません。アルバイト、パート、日雇いの方でも対象です。労災は労働基準監督署への申請手続きが必要となります。通常、会社が申請手続きを行いますが、場合によっては労働者本人、または労働者の家族が申請を行う場合もあります。また、労災は給付の種類や請求内容によって申請書が異なるので、事前に確認しておく必要があります。申請書は労働基準監督署または厚生労働省の公式ホームページからダウンロードすることができます。
業務中のケガや病気によって休職に至った場合は、「休業(補償)等給付」を利用することができます。なお、休業補償の給付を受けられるのは下記条件を満たした場合です。
- 療養のため労働できない状態であること
- 労務不能であること
- 賃金を支給されていないこと
休業補償を利用できた場合は、休業補償給付として給料の約60%、特別支給金として給料の約20%にあたる給付金が受け取れます。つまり、給与のおよそ80%の給付金を受け取ることができるのです。ただし労災にも待期期間があり、1日目から3日目までは給付金の発生がありません。4日目から支給対象となるので注意してください。
休職までの流れ
病気や怪我で働けない状態に陥っている時には、ほぼ間違いなく病院に行っていることでしょう。休職しなければいけない状態の時、そして自分が休職したいと考えている時は、医師にその気持ちを伝えてみてください。「今は休んだ方がいい」と医師も判断した場合は、診断書を発行してもらうことができます。診断書は有料で、病院により異なりますが数千円かかるケースが多く見られます。休職のために書いてもらう診断書には、休職を必要とする期間が書かれています。「〇週間(あるいは〇ヶ月等)の休養を要する」等の文言が多いですが、こちらも病院や医師によって異なります。その診断書を会社に提出し、記載された期間の休職を願い出る形となります。ただし、先述した通り休職には会社で定められた就業規則があります。例えば「休職は1ヶ月まで」等の就業規則がある会社であるにもかかわらず、2ヶ月分の休職を要する診断書を発行された場合は、会社と相談が必要ですが、1ヶ月の休職になる場合もあり得ます。
休職の延長はあり得る?
例えば「1週間の休職が必要」等と医師に診断書を発行してもらっても、1週間では治らなかったという場合もあります。そうした場合は診断書の期限が切れる頃に改めて医師に診断書を発行してもらい、再び会社に休職を願い出る必要があります。会社の就業規則内での期間であれば、一般的に休職の延長は可能です。実際、怪我や病気の治療経過には個人差があるため、当初の予定よりも休職期間が延びるのは珍しいことではありません。ただし、会社によっては「復職の目途が立っていない場合は延長を認めない」とするケースもあります。その他、就業規則に「一定の休職期間経過後に復職できない場合は自然退職」等と明記されている場合もあります。そのような場合は休職の延長が難しいかもしれません。延長できるかどうかは会社の就業規則次第なので、必ず就業規則を確認しておくようにしましょう。
休職中の注意点
休職中は、まずは休職の原因となった病気や怪我を治すことに専念しましょう。焦っても良くないので、医師と相談した治療方針に沿って生活するようにしてください。当然のことですが、勝手に通院や治療を止めてしまってはいけません。病気や怪我を治すために休んでいる以上、自分に負担がかかるような行動は避けましょう。例えば長期間旅行に行ったり、連日遊び歩いたりなどはNGです。休職中とは言え、その会社に籍を置いていることを念頭に、会社に迷惑がかかるような行為は控えるようにしましょう。SNSで会社の愚痴を発信したりしないようあらかじめ注意する会社もあります。会社の就業規則にない場合でも、他の従業員がその投稿を見たら良い気分ではないでしょうから、単に厳しいというわけではなく本人のためを思って言ってくれていることでもあります。極端な話、休職中の行動も懲戒処分の対象になり得るからです。長期の休みとなると生活リズムが崩れがちになってしまいますが、なるべく規則正しい生活を心がけてください。体力も落ちてしまいがちなので、意識的に運動をしたり、無理のない範囲でリハビリをしたりすると良いでしょう。
傷病手当金と障害年金の違い
休職中に受給できる傷病手当金と間違えられやすい制度として「障害年金(障害厚生年金)」があります。傷病手当金と障害年金ではまず、給付金の支給元が異なります。先に説明したように傷病手当金は健康保険組合や共済組合から支給されます。しかし障害年金は、日本年金機構が厚生労働大臣から委託を受けて行っている、国民年金法、厚生年金保険法で規定されている年金給付に含まれます。要するに年金の支給方法の1つが障害年金ということになります。このように傷病手当金と障害年金は支給元が異なります。
さらに支給要件についても傷病手当金と障害年金では異なります。これも先に解説した通り、傷病手当金は「労務不能」が条件ですが、障害年金は「労務不能」が条件ではありません。障害年金における「障害の重さ」については障害認定基準で示されており、この基準内容に照らした上で保険料納付について問題がなければ、誰にでも支給されるのが障害年金なのです。この判断のもと、障害年金は働いていても支給されることがありますし、逆に働いていない状況でも支給されないこともあります。また、傷病手当金は「病気やケガで働けない人」が対象となります。そのため、病院の初診日について特に規定はありません。しかし、障害年金の場合は、初診日から18ヶ月経過してからでなければ申請できません。また、初診日に厚生年金に加入していたことを証明する必要があります。
このように支給要件についても、傷病手当金と障害年金では異なります。
傷病手当金の支給要件や注意点は?
それでは傷病手当金の支給要件はどうなっているのでしょうか。傷病手当金には給与との調整が規定されているため、在籍時の勤務先の給与の証明が必要になります。そのため在職中は勤務先を通じて手続きを行います。ここで重要なのは傷病手当金の「労務不能」という条件です。実は在職中だけでなく、退職後の申請も可能なのです。健康保険の被保険者期間が1年以上あり、在職中から労務不能の状態が継続している場合は、退職後であっても申請手続き後、最長で合計1年6ヶ月の支給を受けることが可能になります。退職後は自分(あるいは委任された社会保険労務士)が手続きを行うことになります。傷病手当金は傷病が治癒していなくても、原則1年6ヶ月を経過すると支給終了となります。なお、傷病手当金を受給することができる条件は下記の3つです。
- 傷病の原因が仕事(業務中)ではないこと
- 休んでいる期間の給料が支払われていないこと
- 3日間連続して休んでいて、4日以上働けない状態であること
傷病の原因が仕事(業務中)の場合は、先述の通り「労災」の対象となるため、傷病手当金の申請対象にはなりません。なお、給料が減額されている場合も、傷病手当金の金額は差額分のみ補填として発生します。3日間の連続したお休みは待期期間として、傷病手当金の申請に必須です。このお休みは有給でも欠勤でも問題ありません。公休を含めて3日間のお休みを確保しても構いません。ただし待期期間は傷病手当金が発生しないので注意が必要です。たとえば「7日間」のお休みに対して傷病手当金の申請を行った場合は、「4日間」だけ傷病手当金が発生することとなります。
受給できる金額は?
いざ傷病手当金を受給できるとなっても、気になるのはその金額です。傷病手当金の基準となるのは、主に健康保険料や厚生年金保険料を計算する時に使用される「標準報酬月額」です。標準報酬月額とは、1ヵ月あたりの給料を1等級~50等級までに区分したものです。傷病手当金の計算式は、主に下記のようになります。ただし、一部の健康保険組合や共済組合などでは計算式が異なる場合があります。
1日あたりの傷病手当金=直近12ヵ月の標準報酬月額を平均した金額÷30×2/3
そのため、仮に直近12ヵ月分の平均標準報酬月額が26万円だった場合、1日あたりの傷病手当金の支給金額は26万円÷30×2/3=5,780円となります。待期期間を除いて30日分申請した場合は5,780円×30=173,400円となります。月の給与に大きな変動がない場合は、月の給与の2/3ほどという数字が一つの目安になるでしょう。
傷病手当金はいつまで受給できる?
残念ながら、休職している限り無限に傷病手当金を受け取れる…というわけではありません。傷病手当金は健康保険の制度であり、会社の制度である休職とは異なります。休職には会社によって決められた期間がありますが、傷病手当金には「1年6ヶ月(18ヶ月)」という上限があります。最長で1年半も受け取ることができるので、病気やケガによって働けない状態になってしまった人にとっては心強い制度です。しかも休職して傷病手当金を受け取っている状態でそのまま退職になった場合は、退職日に出勤しなければ退職後も引き続き受給することができるのです。退職後も給付金を受け取ることができるのであれば、「すぐに転職しなければ生活できない」というプレッシャーもありません。
退職後に傷病手当金を受け取るためには?
休職からそのまま退職して、引き続き傷病手当金の受給を考えている場合、注意しなければならない点は、「退職日に業務に従事できないこと」という要件があることです。実は傷病手当金における「業務」として見なされる範囲は広く、退職挨拶や私物の受け取り、保険証の返却などのため、勤務先に出向くと「出勤した事実がある」ことになり、「業務に従事できる」と判断される場合があるのです。よほどのことがない限り、退職日には出社しないのがベターでしょう。どうしても行かなければいけない場合は退職日当日を避けて出社するのがお勧めです。
また、健康保険組合によっては在職中の申請と退職後の申請で、申請書の様式が異なる場合や、提出書類が増えるケースも珍しくありません。傷病手当金の受給を考えている場合は、社会保険労務士をはじめとする専門家に相談するのも重要なポイントです。
なお、「障害者手帳」というものもありますが、これは傷病を持っている人が障害の程度の証明と、医療費や所得税の負担軽減等のサービスを受けるための手帳です。「障害年金(障害厚生年金)」「傷病手当金」の受給には障害者手帳の有無は関係ありませんのでご注意ください。
休職制度がない場合
休職制度がない場合は、休職が難しい可能性が高いと思った方が良いでしょう。働けない状態になったのであれば退職という流れになる会社があるのも事実です。ただ、少人数での会社や設立して間もない会社では、休職という可能性を考えていなかったというケースもあります。臨機応変な対応をしてくれる会社であれば休職を認めてくれる可能性もあるので、一度相談してみると良いでしょう。休職制度は会社が独自に設けている福利厚生の一つであるため、休職ができないからと言って法律違反ということにはなりません。休職ができない場合でも、在職中の待期期間と退職日のお休みが確保できていれば傷病手当金の申請ができる可能性もあります。
まとめ
休職制度には複数の種類があり、休職制度の有無や休職可能期間は会社により異なるため、必ず会社の就業規則を確認しましょう。業務中や通勤中の事故で病気や怪我を負った場合は労災の対象となり、私傷病の場合は傷病手当金の対象となります。私傷病による休職期間中は傷病手当金を受け取ることで療養に専念することができます。要件を満たせば退職後に引き続き傷病手当金を受給することも可能です。また、休職制度がない場合は退職することになる可能性もありますが、その際も要件を満たせば傷病手当金の申請ができる可能性があります。
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